蜜柑 また君に恋をする(転生現パロ1) 忍者ブログ

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杉の運営する小説ブログサイトです。食伊とシンジャを愛する杉の妄想吐き出しの場。

   

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また君に恋をする(転生現パロ1)

夏コミで発行する予定だった話をアップしていきます。
長いのでちょこちょこと・・・
しぶには全部アップしてるのですが、こっちは長いと読みにくいもんね。
今回は転生現パロなんですが、室町部分が少しだけあります。
既に原稿になってるものをそのままコピーしてるので、何でこここんなにあいてんの?とかあるかもですが、気になさらず~

うーん・・・

せっかくだから本出したかったけど、ジャンルの両立難しいので。
これ食満さんがメガネなんだよーーー!
うあぁぁ・・・
メガネの威力はんぱない。

あ、これ3で完結します。


NEXT


ではお話はこちらから↓↓






◆   ◇   ◆


伊作は留三郎に恋をした。
その気持ちに気づき、暫くした後、留三郎にこんな事を聞いてみる。
 

『好きな人が出来たらどうする?』
 

衝立の向こうから侵入してきたと思ったら、予想外の質問に留三郎は戸惑い、普段し慣れない話に頬を赤く染めた。
「な、何だよ、急に。そんな事考えてる暇なんてないだろ?」
留三郎はこの日出された宿題をしている最中だった。恥ずかしさに戸惑いを見せ、それからすぐに伊作の邪魔する発言に不機嫌な表情を見せる。
まだ、宿題の内容ならこんな表情はしなかったのかもしれない。
「……怒った?」
「怒ってねぇ」
全く興味のない話題に留三郎の言葉は素っ気なかった。
だから、余計にこの言葉が伊作の胸に刺さる。心が痛いと感じた。
留三郎の事が好きなのに、彼は恋愛にすら興味がないのだ。
でも、折角話題を振ったのだからと、伊作は話を続ける事にする。
小平太ではないけれど、ここまで来たらもう勢いでいくしかないのだ。
「例えばの話だよ。留三郎にすごーく好きな人が出来たらどう?」
「どう?って何が?」
やはり留三郎は素っ気ない。向けられていた視線は既に文机へと戻り、意識も半分は宿題に向いている。
「ずっと一緒にいたいとかいろいろあるだろ?因みに僕はね、その人の事ずっと好きでいるんだ」
力いっぱい答えると、留三郎の視線が伊作に向いた。
「ずっと?」
「ずっと!」
伊作は真剣に答えるのだが、留三郎はプッと吹き出した。
「そんなの無理だよ。だって死んだら終わりだろ?とりあえず結婚して、子供作って、老後はそうだな…。夫婦でゆっくり過ごして天寿迎えて終わりってとこか」
「終わりじゃないよ。僕は死んだって絶対に忘れない!生まれ変わったって忘れないんだから!」
声を荒げながら伊作は強く言った。
この想いを絶対に忘れたくなかったからだ。
こんなに好きになる人は他にいない、そう思うから。
「じゃあ、今伊作は前の事覚えてるのかよ?」
留三郎はイタいところをついてくる。
今の伊作に前世の記憶はない。
一番古い記憶を辿っても、今の善法寺伊作として生きた記憶しかない。
「無い…けど、これからそうすんの!」
「そりゃ凄い」
伊作の意気込みに留三郎は半ばバカにするような言い回しをする。伊作の言う相手が自分だと言う事にはまるで気づいていない。
「……留三郎は?もし留三郎が本気で人を好きになったら…。ずっと一緒にいたいって思わないのか?」
伊作は俯き、泣きそうだった。
さっきまでの勢いは消え、言葉に力がない。
でも、伊作の真剣さが伝わったのか、留三郎も暫く考えていた。
適当な答えを出すのは簡単だけど、真剣に答えようとしているのがわかる。そんな所に伊作はまた惹かれるのだ。
「俺は伊作みたいに死んだその先も忘れないなんてのは無理だろうな。もし本当に生まれ変わったとしても、覚えてる自信ねぇもん」
「そっか…」
留三郎が真剣に考え、答えを出した。
でも、だからこそこの答えを聞くのが辛かった。
もし、留三郎と両想いになったとしても、数十年、もしかしたら数年かもしれない。それでこの恋は終わってしまうのだ。
 

(こんなに好きなのに…)
 

悲しくて言葉が出ない。 涙が出そうだった。気を抜いたら溢れてきそうで、伊作は顔を見られないようにじりじりと留三郎から離れていく。
でも、留三郎は離れようとする伊作の手を掴み止めた。
「それでも、もし本当に好きで離れたくない人が出来たら、次に会っても好きになるよ。記憶なんかなくても俺は絶対に好きになる」
そう言って留三郎は笑う。
「ホントに!?」
勢いよく顔を上げるとそこには留三郎の笑顔があって、伊作はそれに安心した。やっぱり涙が出そうになった。
そして、こんな答えを出す留三郎を更に好きになる。
出来るかもわからない答えに、真剣に答えてくれるのだから。
それに、嬉しかった。
留三郎の好きになる相手が自分ではないかもしれないけれど、本当に嬉しかった。まるで、自分の事を言われているかのような錯覚をする程に。
「ホントだって……って何でそんな泣きそうな顔してんだよ?」
「へへっ、内緒~」
伊作は零れそうになる涙を拭いて笑う。
「内緒って…そう言われると余計気になんだろー!」
「内緒って言ったら絶対内緒ー!」
「教えろよー」
留三郎は伊作に腕を回し逃げられないようにするのだが、伊作はすかさずがら空きになった脇腹を思い切りくすぐった。
くすぐったがりの留三郎はたまらず腕の力を緩めて、捕まえていた伊作を逃がしてしまう。
「…お…まえぇー!」
捕まえようと手を伸ばしてくる留三郎をかわし、伊作は衝立の向こうに避難した。
「駄目。教えない!」
「伊作っ!」
「もーしつこいな!留三郎も早く宿題しないと間に合わないよ!」
そう言ってはぐらかし、伊作はまだ手を着けていない宿題を広げる。
「だって俺、伊作が泣いてんの嫌なんだよ」
留三郎は優しい。
優しいから泣いているのを放っておけないのだ。
伊作が全く視線を合わさずにいると、
「後で絶対聞くからな」
留三郎はそう捨て台詞を吐き、宿題の続きを始めた。
またしつこく聞いてくるのだろう。一度気になりだすとしつこいのだ。
 
(でも、教えない。お前にだけは絶対…)
 

伊作はそう心に決めて、目の前のまだ真っ白な宿題に挑むのだった。


伊作の気持ちは今も変わらない。
好きになったあの時のままだ。
少しだけ勇気を出して留三郎に『好きな人』について聞いてみた事もある。
でも、文次郎並みの忍者馬鹿、もとい、格闘馬鹿は恋愛に興味がなかった。
恋愛に時間を費やす位なら勉強をする奴なのだ。
確かに忍者になる為に忍術学園に入ったのだから、当たり前といえばそうなのだろう。
それなら最後までそれを貫き通して欲しかった。
 

『答えが出たら一番に伊作に言うから。だから忘れないで待っててくれよ』
 
そう留三郎に告げられたのは、伊作がまだ忍術学園にいた時。
それは、学園最後の年、六年の秋頃だった。
いつも『同室だから』と言いながら、どんな時も友達として手を差し伸べてくれた彼が、六年の秋頃になって自分には友達という気持ちとは別の気持ちがある事に気づき始めたのだ。
二人は初めて唇を重ね合わせた。
何度も口づけを交わした。
そして、それが自分の思いに気づき始めたのだが、何故自分がそう感じるのかというところには至っていなかった。
人の事には敏感な彼だが、自分の事になるとかなり鈍感な所がある。
二人は一年の時から同じ組で同室。
留三郎の事はよく知っているし、自分に疎い所も彼らしいと思う。
けれど、ずっと留三郎に恋心を抱く伊作にしてみれば、彼らしいと笑ってはいられなかった。
伊作が恋心を抱いたのは三年生の頃、いつも通りの不運に陥った時だ。
この頃一年生に喜八郎が入学してきて、練習だと穴を掘りまくっていたのだ。
今よりも雑に作られた穴に伊作はよくハマっていて、留三郎にいつも助けてもらっていた。
ただあの時の留三郎には少し穴が深くなると、人を引き上げるだけの力がなくて、先生を呼びに行ったり、近くにいる誰かに手伝ってもらっていた。
まだ身体が小さかったから、留三郎にはそれが限界だったのだけれど、伊作が初めて穴に落ちた時は、必死に助けようとしてくれた。
力一杯伊作の手を引っ張って、顔を真っ赤にしながら頑張っていた。
でも、この時は伊作を引き上げる事が出来ずに、留三郎も穴に落ちた。
穴の底に背中を打ちつけた衝撃と、留三郎を受け止めた衝撃で伊作は小さく声を上げて、暫く呼吸が出来なかった。
何度も咳き込んでいると、心配そうな留三郎の声が聞こえ、『伊作、伊作』と何度も名を呼んでくる。
痛みと苦しさに思わず涙が出そうになるけれど、こんなに心配されたら涙などどこかに言ってしまった。
閉じていた目をゆっくり開けば、目の前には自分の代わりに大粒の涙を流す留三郎がいて、伊作が『大丈夫』だと笑うと、今度は何度も謝るのだ。


『助けられなくてごめん』
 

その姿を見てから、伊作は留三郎に特別な感情を抱くようになった。
負けず嫌いで、泣き顔なんて絶対に見せようとしない彼が初めて人前で泣いた。
それにつられて伊作も一緒に泣いて、助けられるまで二人は手を強く握り合い泣き続けていた。


(きっかけはここだったな…)


伊作は生活が落ち着くといつも思い出す。
そして、留三郎の言葉を思い出しては、深いため息をついた。
今、留三郎は自分の隣にはいない。
数年前に学園を卒業してから二人は一度も会っていなかった。
住んでいる場所を教えていないし、知らされてもいないのだから当然と言えば当然なのだが、仙蔵だけは突然ふらりとやってくる。
そして、今日も休憩だと言って、仙蔵は伊作のもとに訪れた。
この日はたわいのない世間話と、留三郎の今を知らされた。
彼はとある城で働いているらしい。
それを知らされ、伊作が素っ気なく返事をすれば、
『気にならないのか?』
とからかわれる。
気にならない筈がない。
暇さえあれば留三郎の事ばかり考えているのだから。
けれど…。
『だって気にしてもしょうがないだろう』
と、伊作はただ笑う事しか出来なかった。
彼が何処の城で仕事をしているとわかっても、何を理由に会いに行けばいいのだろう。
今まで何の連絡もせずにいて、たわいもない話をするのだろうか。
今の伊作には会いに行く理由が見つからなかったのだ。
留三郎は忍者になるために忍術学園に入り、今はその願い通り城の忍隊に就職が決まり生活をしている。
仙蔵はフリーの忍者として活動をし、文次郎は留三郎とは別の城の忍隊に所属している。
何処の城までは聞いてはいないが、前に仙蔵が雇われた城に文次郎が居たというのだ。
そこで留三郎の話が上がり、彼の情報が伊作にも回ってきた。
小平太と長次の情報はないが、何処かで忍者をしているに違いない。
卒業後は皆散り散りになる。
ずっと一緒にいた仲間が敵として現れる事もあるだろう。だからこそ、卒業後の事は誰にも明かさずに卒業するのが暗黙のルールだ。
だから、偶然何処かで会わない限りわからないのだ。
それなのに仙蔵には所在を知られてしまった。
何故かと聞いても『企業秘密』だと笑うだけ。
自分の事は明かさないくせに、その他の情報は流してくれる。
そして、そのおかげで文次郎と留三郎の話が聞けた。
忍術学園で共に過ごした皆は卒業後、忍者として生活をしている中、伊作は忍者になる事を止めた。
今は薬売りとして生活をしている。
伊作が忍者学園に入ったのは勿論忍者になる為だ。
そして、それは伊作だけではなく、忍者学園に入った者の殆どがそうだろう。
忍者になる為に学園に入り、学ぶべき事を学ぶ。
学ぶ知識量は多く、毎日忍者になる為に努力し続けた。
伊作は誰よりも努力していた。
自分が不運だというのも有り、人一倍努力をしていたのだ。
得意分野を作るため、誰よりも薬草や薬について勉強した。
傷薬や風邪薬、そして毒薬まで。
彼の持つ薬の知識はかなりのもので、多数の城からのスカウトもあったのだが、伊作はそれを全て断り今に至っている。
スカウトが来るのは伊作が努力した結果だ。
それなのに忍者にはならなかったのだ。
忍たまには余裕などない。厳しい訓練にも耐え、毎日が勉強だった。
それが全て終わり、これから忍者になれる所まできた。
幼い時からずっと憧れていた。
立派な忍者になるのだと、厳しい訓練にも耐えた。
厳しい現実も見た。
そして、毎日忙しかったけれど密かに恋もした。誰にも告げる事のない恋。始まる事なく終わる筈だった恋。
卒業する前、全て押し込めて、このまま一人で生きる覚悟もした。
それなのに、卒業する少し前に、その覚悟を打ち砕く言葉を留三郎から告げられたのだ。
『待っててくれ』と彼は言った。
暫く伊作から言葉が出なかった。
ずっと押し殺していた自分の想いが伝わるかもしれない、そう思うと嬉しくて仕方がなかった。
自分の想いもこのまま伝えてしまおうかとも思ったけれど、留三郎のこの想いがただの勘違いだったとしたら…。
そう考えたら怖くて何も言えなかった。
頭の中が真っ白になる。


『待ってるよ』
 

暫くの沈黙の後、そう返事はしたけれど、それから
は留三郎の事しか考えられなくなってしまったのだ。
忍たまであればこの学園に守られている。
上級生となり危険な忍務に行く事もあるが、卒業すれば危険は更に増す事は明らかだ。
だからこそ、伊作は忍者になる事を諦めたのだ。
こんな中途半端な気持ちでいたら確実に命を落とす。死ぬのはやはり怖い。
全てをかけて死ぬのならまだいい。
だが、こんな気持ちで死ぬのは嫌だと思った。
だから、『待ってる』と答えはしたものの、留三郎には自分の事は何も告げなかった。
自分の居場所、そして自分の想いも。
もし彼の想いが一時的な物だとしたら、この想いが留三郎を混乱させてしまう事はわかっていたから。
真っ直ぐ自分の道を進んでいるのに、それを邪魔したくなかったのだ。
それが伊作が出した答え。
だから何も告げずに消えて、留三郎が気づき始めたその想いも、時間とともに全て忘れてしまえばいいと。
 

それが一番いいのだと、伊作は自分に言い聞かせ生活しているのに…。
仙蔵は何もしようとしない伊作を見て小さく息を吐く。
「本当に会いたくないのか?」
その言葉に伊作は何も答えなかった。
答えなかったというより、答えられなかったのだ。
会いたくない筈がない。
留三郎を想う気持ちは今も薄れる事なく伊作の中にあって、ずっと彼の答えを待っているのだから。
答えが欲しい。
でも、その答えを知るのは怖いし、邪魔をしたくない。
それにあの時は自分の事を好いていてくれたかもしれないが、あれから既に数年が経っている。
そんな気持ちは何処かに薄れて、『伝える』と言った事も忘れているかもしれない。
これが伊作の本音だ。
忘れられているかもしれないと考えると怖かったのだ。
だから、ずっと留三郎を避けていた。
この話は誰にもした事がない。
それなのに仙蔵は昔から勘がよく、恐らく伊作の気持ちに気づいているからこそ、毎回こんな話をしてくるのだろう。
「こんなに君はお節介だったか?」
そう言うと仙蔵は何も答えず静かに笑う。
そして、随分前に出された冷めたお茶を全て飲み終えると、仙蔵は深く笠を被りまた忍務に戻っていく。
いつもならそのまま挨拶を交わすだけなのだが、この日は一度足を止めて深く被った笠を上げた。
「あぁ、そうだ。この近くで近々戦が始まる。お前は行かない方がいいぞ」
「いきなり何だ?そこに何かあるのかい?」
「お前の事だ。流れ弾に当たるかもしれないだろう?」
「縁起でもない事言わないでくれ」
伊作がそう言えば仙蔵は昔と変わらない笑みを浮かべ、また笠を深く被り忍務へと向かう。


そして数日後、仙蔵の言った通り戦が始まった。
 

 

 

 


伊作は大砲や火縄銃、雄叫びのような大きな音を聞きながら薬を作っていた。
薬売りとしてここにいるのだから、こんな時でも伊作の薬を待っている人達がいる。
見過ごす事は出来ない。
だが、薬の材料となる薬草は残り少なく、出来上がっている薬も今は傷薬だけになってしまった。
本来ならこんな事にならないように薬草を採に行くのだが、伊作はいつも行く場所は戦の真っ最中だ。


(どうしようかな…)
 

伊作は数日前、仙蔵に言われた言葉を思い出す。
 

『お前の事だ。流れ弾に当たるかもしれないだろう?』
 

ずっと忍者を目指していたのだ。合戦場での経験がない訳ではない。忍たまだった頃も合戦場での演習があった。
今ではそんな生活から遠ざかってしまったけれど、それなりに経験は積んだ。
それに、今まで不運だと言われ続けてきたが、命に関わるような大きな怪我は一度もない。
確かに怪我は多かったから自分の為に使った傷薬は多かった。
でも、生きている。
だから伊作は『自分は不運の中でも運が良い』のだと思う事にしていた。
「仕方ない、行くしかないか」
沢山薬草が採れなくても、必要最低限はどうにか出来る。伊作は小さな籠を一つだけ持ち、薬草を求めて合戦場へと向かった。


薬草は合戦場から少し外れた場所にある。だが、そこに行くには合戦場を横切らなければならなかった。
合戦場に近づくに連れ、火薬と死臭が濃くなっていく。今ではここまで濃い臭いの中に入る事は無くなった。でも、遠くから流れてくる臭いに昔を思い出す。
忍たまとして忍者を目指していたいた頃をだ。
こんな宿題があった、失敗して怒られた事。
そして、忍務や演習を共にこなし、一番長く生活をしていた留三郎の事を。
 

(あぁ、いけない。ここは合戦場だ…)
 

伊作は顔を叩いて意識を戻す。今いる場所は家ではない、合戦場なのだ。
安全を考え遠回りをしているけれど、集中は絶対に切らせてはいけない。
さっきからずっとここに銃弾や矢は飛んできていないが、刀を持った男や忍が沢山いる。
とはいっても、負傷し戦線から外れた者達ばかりだが、それでも油断は出来ないし、何が起こるかわからない。
 

(集中だ、集中しろ…)
 

伊作は一度目を閉じてから息を吸い、この噎せるような空気を身体に入れた。
そして、昔の感覚を少しずつ思い出していく。
 

少しずつ 少しずつ…


「よし」
伊作はゆっくりと目を開いた。
この中にいると感覚が研ぎ澄まされていく。まだ、その感覚を伊作は忘れていなかった。


そして、気づいた時には――――――
 

「何処が痛みますか?」
負傷し動けなくなっている者に声をかけていた。
でも、手持ちの傷薬と包帯は少なくすぐに底をついてしまった。出来る手当てといえば汚れた旗を割いて作った包帯での止血、骨折した箇所の固定、その程度だった。
出来る事は大した事がなくても、それだけで助かる命もある。
逆に手当てをしても助からない命もあるけれど。
こんな事をしているから、伊作は一向に合戦場を抜け出る事が出来なかった。
だが、目の前にいる傷付いた人達を放っておく事は伊作にはどうしても出来なくて…。


(まぁ、仕方ないか)
 

伊作がそれから何十人と治療をした後、今まで夢中で気付かなかったが、今までなかった気配に気付いた。
この周辺にある気配は、傷付き、悲しみや苦しみ、諦めといった負の感情が充満している。
だが、今伊作が感じた気配は殺伐とした気配だった。
 

(忍か…)
 

伊作は目線だけそちらに向けて姿を確認しようとするのだが、その姿を確認する事は出来ない。
ここには沢山の怪我人がいる。
 

(巻き込まれなければいいけど…)
 

そう思いながら伊作は手当てをし、今ここにいる怪我人の治療を終わらせた。この辺りに彷徨く忍者達が何をしているかはわからないけれど、何とか巻き込まれず終わる事が出来た。
「他に怪我人はいますか?」
そう聞くと、顔の半分以上に火傷を負った男が林の中を指差し、唯一無事な右目が伊作に視線を向ける。
「ありがとう」
伊作は包帯を持ち茂みに向かった。
でも、そこには誰もいない。
「手当てをします。誰かいませんかー?」
伊作は辺りをそう言って探した。
もしかしたら動けないのかもしれないからと、伊作は茂みの中まで丁寧に探す。
すると、足が見えた。
呼吸も微かだが聞こえる。
でも、ヒューヒューという呼吸音が聞こえたのだ。
倒れているのは男。格好を見ると忍者だという事がわかる。
「大丈夫ですか?」
聞いても返事はない。
喉をやられているのか、苦しそうな呼吸だけが聞こえ、伊作がその男の顔を覆う布を外すと――――――
「留三郎…?」
もう何年も見ていない、想い人の姿。自分の中にある彼の姿はまだ忍術学園にいた頃の留三郎。
だが、それでもわかる。
あの頃よりも少し身長が伸びて、身体付きもよくなっていた。
きっと、毎日鍛練をしていたのだろう。
顔も大人びているけれど確かに留三郎だ。
「酷い…」
伊作はすぐに首の止血を始めた。
他にも傷があるかもしれないが、とにかく出血が酷いのだ。
薬も何もない状況で出来る事は止血だけ。
だが、止血をしながら悟った事がある。
もう助ける事は出来ないと。
忍者として生きる事を止めてしまった伊作には、忍術学園にいた頃の力はもうない。でも、医術の勉強だけはずっとやってきた。
だからこそわかってしまうのだ。
「留三郎…」
伊作はそっと留三郎の名を呼んだ。
もう手当てをしても助からないとわかり、伊作はこれ以上何もしないと決めたのだ。
少しでも痛みが治まればいいと手を握り願う。
まさか、こんな出会い方をするとは思わなかった。
本当は元気な姿の彼と出会いたかった。
すると、留三郎がゆっくりと目を開いた。
「留三郎、僕がわかるかい?」
だが、留三郎の目は虚ろで、声が聞こえているかもわからない。
それでも伊作は名を呼んだ。
「留三郎、留三郎……、会いたかった…」
話したい事は沢山ある。
けれど沢山ありすぎて、『会いたかった』としか伝えられずにいた。
すると、留三郎が手を握り返してくる。
微かに口を動かしているのだが、それは声にはならなかった。
必死に何かを訴えているのにわからないのだ。
「わからない、わからないよ、留三郎…」
涙が溢れてくる。
あんなに力強くて大きかった声は、今では微かに空気の漏れる、ヒューヒューという音に変わってしまった。
 

何を伝えようとしてるの?
 

それはあの時の答えなのか。
 

今となってはもうわからないけれど、留三郎は必死に伝えようとしているのだ。
もう一度だけでいい、君の声を聞きたい。
伊作はそう思って泣いた。もう助からないのであれば、せめて声だけでも聞きたかった。
でも、どんどん弱っていく。
握り返してくれた手からは力が抜け、呼吸をするの
でいっぱいだ。
今では留三郎の呼吸の音を聞かなければ、生きているのかさえわからなかった。
それなのに、さっきまで遠かった戦の音が次第に大きくなって、その音がかき消されてしまうのだ。
それに気付いた伊作は顔を上げる。そして、大きな声が聞こえたと思った瞬間、何人もの足軽達がこちらに向かって走ってくるのだ。
 

(逃げてきているのか?)
 

走ってくる足軽達の必死な形相に、伊作の背中にゾクリと寒気が走った。
この先で一体何が起こったのかはわからないけれど、今までと状況が変わったのだ。
そして、バンという音と共に逃げてくる者達は一人、二人と、倒れていく。
ギャアッと声を上げて倒れ、全く動かない者、激痛に苦しむ者で周りはいっぱいになった。
伊作は留三郎を庇うように覆い被さり、このままやり過ごせればと願う。
 

(神様、神様、神様っ!)
 

今までこんなに祈った事があっただろうか。
それ程必死だったのだ。 でも、留三郎に近付いた事でわかった事がある。
留三郎はもう呼吸をしていないのだ。
「留…三郎…、僕はまだ君の声を聞いてないよ…」
伊作は強く、強く手を握り、何度も名を呼んで泣く。
もう、彼の温もりを感じる事も、声を聞く事も出来ないのだ。
「留三郎…」
伊作は顔を上げ、留三郎の顔を撫でる。
胸に耳を当てても、鼓動は聞こえない。けれど、まだ温もりを感じる事は出来る。それが悲しかった。まだ温かいのに彼は目を開ける事がないのだ。
でも、留三郎は忍者として生きると決めた。こんな死も覚悟していた筈だ。
身体に触れると肋骨は折れ、足も折れている。喉も切られ、声も出ない。
ボロボロだった。
でも、息を引き取った留三郎は穏やかな表情をしている。
どんな死に方をするにしろ、それは留三郎の人生だ。でも、こんな穏やかな表情で最期を迎えたのなら、それだけが救いだと伊作は思った。
お疲れ様、留三郎」
伊作がそう優しく声をかけると、


バンッ
 

「あっ…」
伊作の左胸が赤く染まっていく。
濃い血の臭い。
「ぐぅっ…」
呼吸が出来なくなる。今まで感じた事のない程の激痛が走った。伊作はそのまま倒れ込んだ。周りでは自分と同じように倒れ込む足軽だらけだった。
狙われた訳ではない。
ただ、無差別に逃げる足軽達を狙った銃弾に当たっただけなのだ。
 

『お前の事だ。流れ弾に当たるかもしれないだろう?』
 

そう言って笑った仙蔵の言葉を伊作は思い出した。
 

(あぁ、仙蔵の言うとおりになってしまったな…)
 

こんなに痛いのに伊作は笑った。
留三郎の手を力の入らない血に汚れた手で握り、その隣に横になる。
伊作は動けなかった。
自分はもう長くない。
さっきから血が止まらないのだ。止血もしていないから、恐らくこのまま死ぬだろう。
でも、今は隣に留三郎がいる。
大好きな彼がこんなに近くにいるのだ。
だから寂しくはない。
一人で野垂れ死ぬより、好きな人と共に死ねるのなら幸せなのだと思えた。
 

でも、欲を言うのであれば――――――


もう、彼にはこの言葉は届かないけれど。
 

「君と一緒に生きたかった。大好きだよ、留三…ろ…」
 

伊作はゆっくりと目を閉じる。
 

そして、握られた二人の手は離れる事はなかった。

 

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