蜜柑
杉の運営する小説ブログサイトです。食伊とシンジャを愛する杉の妄想吐き出しの場。
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また君に恋をする(転生現パロ3)
やっぱり本にする用の話はブログに載せると長いな・・・と思ってしまう。
私、すぐに眼が疲れるから長い話は紙で読みたいです。
あと私、すぐ仙蔵出したがる。伊作と仲良しなのがいいのっ!
あの仙蔵が伊作を認めて一緒にいるってのがいいのっ!!
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では続きはこちら↓↓
朝はやっぱり苦手で、案の定伊作は、仙蔵からのモーニングコールで目を覚ました。
前日からバスに乗ると意気込んではいても、伊作は何故か起きられない。
昔はちゃんと起きられていた筈なのに、今はどうしても駄目なのだ。
昔の記憶はあるのは確かだが、やはり生まれ変われば前とは違う人間なのだろう。
そんな事を考えながら、伊作は制服に着替える。
ぼーっとしている時間が長かったから、朝食を食べている時間はなく、結局伊作は着替えただけで家を出る事になってしまった。
「お腹すいたぁ…」
「私は余裕を持って起こしたぞ」
「わかってるよ」
仙蔵のカウントダウンで家を出て、予定時間の少し前でバスを待つ。
バスが来るのが待ち遠しい。
あともう少しで留三郎に会えるのだ。
それにまだ雨は降っていないから身軽でいい。
伊作はずっとバスの来る方を眺めながら笑顔だった。
「なんだ、随分機嫌がいいじゃないか?」
「そうかな?」
「そうだよ。朝食抜いてるのにな。そんなに楽しみか、バスに乗るのが?」
仙蔵がそう聞いてくるのと同時にバスが停車した。
乗り込む仙蔵の背中に伊作は、
「そんな事ないよ」
そう言ってバスに乗り込んだ。
バスに乗り込むと留三郎は一番後ろの端に座って本を読んでいる。
前も同じ場所に座っていたから、そこが彼の定位置なのだろう。
伊作と仙蔵は勿論、留三郎の前の席に座る。
おはよう、と挨拶をすると留三郎は顔を上げて本を閉じた。
「今日は自転車じゃないのか?」
「帰りに雨が降るみたいだからな」
「あーそっか」
仙蔵と留三郎との会話が始まる。伊作は本人を目の前にしてしまうと少し緊張して、話せなくなってしまった。
どんな話をしよう?
普通の事がわからなかった。
話す事は好きで、いつも自然に出来ていた筈なのに、今は二人の会話にただ耳を傾けるだけだった。
そんな時、
ぐぅぅぅぅ…
「わっ」
伊作は慌ててお腹を押さえ、そのまま突っ伏した。
「随分と盛大に鳴ったじゃないか」
見れば仙蔵は恥ずかしがる伊作をニヤニヤと見下ろしていた。
「うるさいなっ!ご飯食べてないんだから仕方ないだろー」
「何だよ、そんな腹減ってんのか?」
留三郎も笑いながら伊作に声をかけてきた。
「……うん、ちょっと」
「あれだけ大きな音を鳴らしておいてちょっとはないだろう?」
「もー仙蔵は黙ってて!」
「そんなに腹減ってるなら早く言えよ」
留三郎は笑いながら自分のバッグを漁る。
「やるよ、俺の非常食」
渡されたのはカロリーメイトだった。
「いいの?」
「いいよ、腹減ってんだろ?」
「ありがとう、食満君」
「おいおい、食満君ってのはやめてくれよ。留三郎でいいって。仙蔵もそう呼んでるし、俺も伊作って呼ぶからさ」
「うん」
留三郎がそう言ってくれたのが嬉しかった。
こんな普通の事が伊作は嬉しくて仕方がなかったのだ。
嬉しさのあまり口元が緩んでるのがわかるし、涙まで出そうになる。
こんな姿を見られたらまた仙蔵に何を言われるかわからないから、伊作は貰ったカロリーメイトを必死に食べているフリをしてその場をやり過ごそうとした。
本当は前を向いて顔を見られないようにしたかったのだが、急にそれをするとおかしいからと、伊作は留三郎の方を向いたまま、少しだけ顔を下げるのだけれど…。
「…何?」
伊作が留三郎からの視線を感じて顔を上げると、彼は覗き込むようにしてこちらを見ているのだ。
「また泣いてんのかなと思ってさ」
「泣いてないよ」
「ならいいんだ。俺、伊作が泣くの嫌だからさ」
「それなら私もそうだ」
仙蔵までそんな事を言ってくる。
「ははっ、それなら僕も同じだよ」
伊作は二本目のカロリーメイトをかじり、幸せ過ぎて出そうになる涙を必死に抑え笑った。
昼過ぎ辺りから、ぽつり、ぽつりと空から雫が落ちてくる。
「あー、やっぱり降った」
昼休み、イチゴ牛乳を飲みながら伊作は窓の外を眺め言葉に出すと、自分の隣に座る男子生徒もまた、窓に視線を向けた。
「何だ、伊作。傘を忘れたのか?」
「忘れてないよ、折り畳み持ってきてるもん。小平太こそ持ってきた?」
「私か。私は持ってきてないぞ。雨でも走れば五分で家に着く!」
そう言うのは七松小平太だ。小平太はガッツポーズを作り笑う。
小平太がこの高校を選んだのは、ただ家から近いというだけのようで、ここに入る為に必死に勉強したようだ。
そして、小平太の前に座り大人しく窓の外を見ているのは中在家長次。
小平太と長次は出席番号も繋がり、幼なじみだから仲もいい。
口数の少ない長次と、いつも騒がしい小平太。二人はまるでタイプが違うのだが、不思議とバランスの取れた二人だった。
「雨……やっぱり…」
長次は窓の外を見てもそりと呟き、小さく息を吐く。
「あー、そう言えばさっき留三郎と文次郎が仲良く教材運んでたなー。長次も見たのか?」
「見た」
「どういう事?」
最近わかった事は、仲良くなった小平太と長次が留三郎とも幼なじみだった。今は家が離れているが、高校に入る少し前に今の家に引っ越したらしい。
「文次郎も私達の幼なじみだ。ただ、留三郎と文次郎は犬猿の仲と言われててな。仲良くすると雨が降ると言われているんだ」
「へぇ。相変わらずなんだ」
伊作がそう言うと、小平太と長次は互いに顔を合わせて首を傾げた。
「相変わらず?」
「あぁ、気にしないで」
伊作はそう言ってごまかした。
小平太に対してはこれで十分で、思った通り『わかった』で終わった。
二人と話をしていると、伊作は昔を思い出す。
小平太と長次は前世で伊作と共に勉強をした仲間だ。
だから今の時代で出会ったのは最近でも、彼らの大体の行動はわかる。
そして、文次郎もそうだ。
まだ、話した事はないけれど、きっと彼も変わっていないのだろう。
それに留三郎と文次郎が犬猿と呼ばれ、仲良くすれば雨が降る。
今も昔も変わらずそう言われているようだ。
最も彼らには記憶などないのだろうが。
「本当に皆変わらないんだなー」
伊作は机に顔を伏せ呟いた。
「ん?今何か言ったか?」
「何でもないよー」
「そーかそーか!」
あまり物事を気にしないのは相変わらずで、小平太は笑顔で伊作の背中を叩いてくる。懐かしい衝撃に伊作はせき込みながら、それでも昔と変わらない今が嬉しくて…。
「小平太、痛い……ゴフッ」
と伊作は最後にむせ込んで、盛大にイチゴ牛乳を吹き出し、自分の弁当を駄目にしたのだった。
雨は昼よりも少し強くなった。
雨だからといって犬猿の二人がいつまでも仲良くしている筈もなく、これは昨晩ニュースで言っていた通りの事だ。
授業も終わり、後は帰るだけ。
伊作は隣のクラスを覗くと、それに気づいた仙蔵はバッグを持って教室から出る。
「すまん。今日はこれから部活だ」
仙蔵は茶道部に入った。茶道の経験はまるでない仙蔵だったのだが、クラブ見学に行って気に入ったらしくすぐに入部した。
でも茶道部は毎日ある部活ではない。
週にニ、三回のペースで集まり、作法を学ぶ。そして、外部からの講師を招き、その時に茶をたてるのだ。
「今日、部活の日だっけ?」
「いや、急に呼ばれたんだ」
「そうなんだ。じゃあ、先に帰るよ」
「すまんな」
すぐ近くの階段まで一緒に行き、仙蔵とはそこで別れた。上の階に向かう仙蔵にバイバイと手を振り、伊作は下の階へと向かう。
伊作はまだ部活に入っていないから、そのまま帰宅するだけだった。
部活に入るか、バイトをするかで未だに迷っている。部活に入った仙蔵は楽しそうだし、小平太も長次も入ってるから自分も何処かにとは思うものの、あまりピンとくる部活はなかった。
(留三郎は何部なんだろう…?)
身体を動かすのが好きだから運動部だろうか。
それとも手先が器用だから文化部か。
小平太のようにわかりやすければいいのに、と伊作は短く息を吐いた。
伊作の予想は当たり、彼は現在バレーボール部に所属している。因みに長次は料理部だ。
「今度聞いてみようかなー」
そんな独り言を言っていたら、
「何を?」
と声を掛けられ、見ればそこには留三郎がいた。
「留三郎っ!?」
急に声を掛けられた伊作はびっくりして、バッグを廊下に落とした。落としたら不運にもチャックが開いていて、中身をバラまいたそこは流しの前。それも水の溜まっていた所にノートを落としてしまった。
更にペンケースも布製で、それもまた水の上。今日は雨で全体的に廊下は濡れていて、落とした物は全て湿っぽくなった。
「……何かごめん」
「…いいよ、気にしないで。いつもの事だから」
「……いつも?」
「そうなんだ。僕、運がなくてさ」
そう言っても留三郎は気にしているままだ。いくら運がないと言われても、納得がいかないのだろう。
伊作は拾って貰ったノートや教科書を受け取りバッグに積めていると、中に入っていると思っていた物がない事に気づいた。
「あ、傘忘れた…」
そう伊作が呟いたのを聞いて、留三郎は顔を引きつらせた。
ついでに言うと家の鍵も忘れていた。いつも家には母親がいるのだが、この日は出かけるから鍵を持って行けと言われていたのだ。
でも思い返して見ると鍵は傘と共に玄関に置き忘れている。
「何かごめんね」
伊作は留三郎の傘に入れてもらいバス停でバスを待つ。
「別にいいよ。あ、でも鍵ないから家にも入れないんだよな?」
「まぁ入れなくても何とかなるよ」
「なんねぇだろ、雨降ってんし。それなら家来ないか?今日はバイトないから暇なんだ」
バスを待つ時間、留三郎はそう話を切り出してきた。
不運な友達に対して言った言葉で、その言葉にそれ以上の意味などないとわかっている。
でも、わかっていても伊作は嬉しかった。
「じゃあお言葉に甘えて」
伊作はそう言って笑う。
傘も家の鍵も忘れた。バッグの中身も廊下にバラまいて、ノートは水に濡れた。
不運だ。
いつも通りの不運だったけれど。
(あぁ、幸せ)
そう本気で思える程、伊作には今日の不運が不運ではなくなっていた。
今日の朝までは緊張してまともに話も出来なかったのに、今はもうそれがない。緊張など何処かに消えて、話せなかった事が嘘のようだった。
「俺、ちょっとハマってるゲームがあってさー」
「僕もこの前ゲーム買ったんだよね。『NINJYA』ってゲーム」
「マジで?俺がハマってんのそれだよ。毎日やってるから最近は朝がツラくてさ」
そう言って留三郎は笑う。よく顔を見ると、目の下にうっすらクマが出来ていた。
伊作もまたこのゲームにハマっている。
『NINJYA』とは最近発売されたアクションゲームで、プレイヤーの忍者を一人選び、自分の所属する城を決め、与えられた忍務をこなしていくゲームだ。
二人プレイも可能だから二人でも遊ぶ事が出来る。
バスの中では今、何処まで進んでいるか、アイテムの取り方、そんな話で盛り上がっていた。
伊作は自分の最寄りのバス停を通り過ぎた事にも気づかず、留三郎が降車ブザーを押した事でそれに気づいた。降りる訳ではないけれど、全く気づかなかった事に伊作は驚いた。
話をする事に、彼の姿を見る事に夢中で周りの音が聞こえなかった。
「伊作、降りるぞ」
「あ、うん」
降車したバス停は伊作の最寄りバス停から二つ先だった。
「実は結構、家近いんだね」
「だよな。更に家はバス停から徒歩ニ、三分。伊作ん家は?」
「うちもその位だよ」
伊作は留三郎の隣を歩く。
昔と変わらない位置。一番落ち着く自分の定位置だ。
こんな話をしている間に家に着いた。留三郎の家は十五階建てマンションで、エレベーターで向かうのは八階だ。
一気に上がったエレベーターから降りると、そこから三つ目のドアの前で留三郎が足を止めた。
留三郎が鍵を取り出しドアを開けて中に入ると、家の中はしんとしている。バスの中で両親は共働きだと言っていたから、まだ帰ってきていないのだろう。
「お邪魔します」
「どうぞ」
留三郎は伊作を玄関からすぐの部屋に通し、脱いだブレザーをハンガーに掛けた。伊作のブレザーもハンガーに掛けると、留三郎は部屋から出て、すぐに戻ってきて持ってきたと思ったら、ポテトチップスとペットボトルとコップを持って戻ってきた。
「よし、やるかっ!」
「うん」
その後は真剣にゲームをやった。
無駄口をたたく事なく、二人の意識は目の前の画面へと向けられていた。
ひたすら忍務をこなす。
夢中になっていたら気づけば夜で、二人がゲームを終わらせたのは、留三郎の母親が帰宅してからだった。
「うわっ、もうこんな時間!」
時計を見ると既に二十時を過ぎていた。
「大丈夫か!?夕飯とか」
「それは大丈夫。こっちこそごめんね、長居しちゃって」
「そんなの気にすんなよ」
伊作が帰る準備をし、留三郎が送り出す準備をしていると、勢いよく部屋のドアが開いて入ってきたのは、両手に湯気のたつチャーハンを持った留三郎の母親だった。
「ご飯、食べて行きなさい」
「あ、はい」
伊作に拒否権はないようだ。
チャーハンを受け取った二人は顔を見合わせ、もう一度ゲーム機を起動させるのだった。
行儀は悪いけれど、チャーハンを食べながらもう少しだけゲームをして、伊作は家に帰った。
帰る頃には既に雨はあがっていて、空を見上げると星が見えた。
家に帰ると玄関には今日忘れた傘と鍵が置いてある。
それを持ち、リビングに顔を出してから伊作は部屋に戻って、今日の出来事を思い出した。
ゲームしかしていなかったけれど、二人で楽しく過ごせた事が嬉しかった。
また、遊ぶ約束もした。
留三郎はバイトがあるから、それがない日に限られてしまうけれど。今度は伊作の方を強くする為に二人で頑張るのだ。携帯の番号もアドレスも交換したから、いつでも連絡が取れるようになった。
(嬉しいな…)
携帯に保存された留三郎の名前を呼び出し、伊作は思わずにやけてしまう。
仲良くなると、もっと、もっとと思いが強くなるばかりで…。
「…大好き」
そう呟き、伊作はベッドの上でゴロゴロしながら携帯を握りしめるのだった。
それからというもの、二人は互いの家に通うようになった。
勿論、目的はゲームだ。
でも、もう随分強くなった。忍務も既に完了している。
新しいゲームも出た。
それでも二人はまだ『NINJYA』で遊んでいた。
この日は晴れ。
留三郎は相変わらずバス通学だから、帰るのに時間がかかる。伊作はゆっくり自転車をこぎながら、コンビニで今日食べる為のお菓子を買い込んだ。
そして、またゆっくりペダルをこいで、待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせ場所はバス停で、伊作が到着した時には既に留三郎は到着していた。ベンチに座り、いつものように本を読んでいる。
「留三郎」
呼ぶと留三郎は伊作を確認する。
「あー、やっときた」
留三郎はすぐに本を閉じて立ち上がり、伊作の横に並んだ。
「待たせた?」
「んー、一、二分ってとこかな」
携帯で時間を確認して笑う。
「そんなに待ってないじゃん!」
「はははっ、何か待ち遠しくてさ」
「……待ち遠しい…?」
「うん」
留三郎ははっきりと答えた。
表情はいつもと変わらない。何故、こんな言い方をしたのかわからないけれど、たった一、二分でそう言われたら気にしてしまう。
伊作の心臓が激しく脈打っていた。その音がうるさくて仕方ない程だ。
こんな状態だから上手く話も出来なくて、どうしてもぎこちなくなってしまう。
慣れた道、勝手のわかる部屋。
最近ではよく夕飯までご馳走になってるし、次の日が休みならゲーム合宿と言って泊まる事もあった。
つい最近、友達になったとは思えないくらい仲良くなった。
隣にいる事が自然だと思えていたのに、今は全然落ち着かなくて顔が熱い。
(留三郎のせいだ、あんな事言うから…)
留三郎は知らない。
伊作がずっと好きでいた事。
そして、前世からずっと留三郎だけを想い続けていた事を。
「伊作、どうした?」
留三郎について歩いていた伊作は、買い物袋を持ったまま玄関に立ち尽くしていたのだ。
「え?あ、何でもないよ」
手を振りながら笑って誤魔化そうとするのだが、留三郎は疑いの目で見てくる。
「嘘つくなよ」
「嘘なんて…」
いくら何でもないと言っても、伊作がちょっとした表情や声で気持ちを感じ取れるように、留三郎もそうなのだろう。
留三郎はフッと短く息を吐くと、伊作の手を強く引いた。急に手を引くものだから慌てて靴を脱ぎ部屋に入った。
「ちょっと、留三郎!?」
部屋に入るとベッドに座らされ、留三郎は強く伊作の肩を掴み詰め寄った。
「俺達、付き合いは長くねぇ。でも、お前の顔見りゃ嘘ついてる事くらいわかる!だから隠すな」
留三郎が真っ直ぐ伊作を見てくる。
本当は言いたい。
全てを打ち明けられたらどんなに楽だろう。
自分の想いを胸に秘め続ける事がどれほど辛い事か。
そんな事はわかっているのだ。
それでも伊作は怖かった。
留三郎の言葉に心が躍り、してはいけない期待をしているなんて言ったら、どんな顔をするだろう。
好きだと打ち明けて、拒絶されるのが嫌で、それが壊れてしまうのならこのままでいい。
「……言いたくない」
伊作は顔を伏せ、留三郎を押し返す。
「何でだよ!?」
「何でも!僕は留三郎に嫌われたくない。こうやって楽しく過ごしたいんだ」
「そんなの俺だってそうだ。伊作と一緒にいたい。だからお前の事、全部知りたいんだ」
「じゃあ、そんなに言うなら留三郎の事教えてよ」
(僕はズルい…)
こんな時ばかり臆病になって、留三郎に全てを押し付けている。
留三郎の答えに合わせて、当たり障りのない答えを返そうとしているのだ。
前世でもそうだった。
自分からは言わず、留三郎の答えを待った。
そして、次に出会ったらこの想いを伝えようと決めていたのに、また逃げようとしている。
(ごめんね。やっぱり怖いんだ…)
互いの距離が近づけば近づくほど、伊作は臆病になる。
だから――――――。
「君の事を教えてくれたら、僕の事も話すよ」
「本当に?」
「うん、本当」
伊作は顔を上げて笑って見せる。
すると、留三郎はベッドに座る伊作の前に膝をつき、両手を強く握った。
「好きだよ、伊作」
留三郎は顔を上げなかった。
伊作の手の甲をじっと見つめて、静かにそう言った。
「……え?」
聞こえなかった訳じゃない。
確かに聞こえた『好きだ』という言葉。
でも理解が全く出来なくて、伊作はもう一度聞き返してしまった。
「何だよ、聞いてなかったのか?」
顔を上げた留三郎は耳まで真っ赤で、伊作と目が合うと恥ずかしそうにまた逸らす。
「ごめん、聞いてたけどもう一回!」
すると今度は留三郎が伊作を見上げ、しっかりと目を合わせてきた。
「好きだよ。出会ったのは最近だし、まだわからない事だらけだけど、俺はこれから先もずっと伊作と一緒にいたい」
「…うん、うんっ」
ぽたり、ぽたりと握る手に涙が零れた。
「伊作、返事が欲しい」
留三郎を見ると頬を赤く染め、恥ずかしがっているのがわかる。
でも、向けられた視線は真っ直ぐでそれが本気だというのがわかった。
伊作は留三郎の手を強く握ったまま、肩口に額を当て暫くそのまま黙っていた。
「返事はすぐじゃなくていいから、気持ちが決まったら返事を聞かせて欲しいんだ。それまでずっと待ってる」
そう言われて伊作は首を横に振った。
「好き。僕も好き。大好き!ずっと好きだった。ずっと、ずっと、ずっと前から好きだったんだ」 伊作は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、留三郎に答える。
「何だよ、まだ出会ったばかりなのに。それに鼻水垂れてるぞ」
そう言って留三郎は笑った。
彼には記憶がないのだから、伊作の言った事の意味などわかりはしない。
説明した所で信じてもらえないだろう。
でも、留三郎の答えを聞けた気がした。
この言葉が、彼が死の間際に言おうとした言葉なのかはわからないけれど、それでも伊作は嬉しくて涙が止まらなかった。
そして、自分の思いもやっと伝える事が出来たのだから。
「出会ったばかりだけど、そうじゃないんだ」
伊作はそのままベッドから降りて、留三郎の背に腕を回した。
「出会ったばかりだけどそうじゃないか…。でも、俺も伊作とはずっと前から出会ってた気がするよ。夢に見るんだ。見上げると泣いてる伊作がいて、伝えたい事があるのに俺、声が出なくてさ。結局何も伝えられずに終わっちまうスッキリしない夢なんだけどな」
スッキリしないと言うのに留三郎は少し弾んでいて、伊作の背に腕を回すと強く抱きしめた。
留三郎が言っている夢というのは、もしかしたら死ぬ直前の事ではないか、と伊作は思った。
前世で留三郎は死ぬ直前に伊作と出会っている。
何か言おうとしていたのに、喉を切られ声が出せなかったのだ。伊作は傷ついている留三郎を助ける事が出来なかった。出来た事はただ、涙を零すだけ。
そして、最後まで何かを伝えようとしていた留三郎の弱っていく様を目に焼き付ける事しか出来なかった。
この風景があまりにも印象強くて、伊作は何度もこの時の夢を見た。
お互い、思いを伝えられないまま死んで行く夢だ。
留三郎が言っているスッキリしない夢というのは、彼の中に残った前世の記憶の一部。
何も伝えられずにそこで夢が終わるのは、その先が存在しないからだ。
それなのに、留三郎の声はどこかスッキリしたようだった。
「スッキリしてないんじゃないの?」
あまりにも留三郎の声は爽やかで、楽しげにしているから聞いてみる。
すると、留三郎はくっくと笑う。
「今はスッキリしてるよ。夢で言えなかった事全部言ったから。俺さぁ、夢に見るくらい伊作の事好きみたいなんだ」
その言葉に伊作は嬉しくて涙を流した。
こんな事は絶対に有り得ないと思っていたのに、一番嬉しい言葉を留三郎から聞く事が出来たのだから。
「凄く嬉しい。でも、僕だって留三郎の事大好きなんだからね」
「うん」
「ねぇ、留三郎。暫くこのままでいていい?」
「いいよ」
伊作は伝わる体温の心地よさに、ゆっくりと目を閉じた。
ずっとこんなふうになれたらいいと思っていた。
彼の体温を一番近くで感じる事が出来たら、どんなに幸せだろうと。
思って、思って、思い続けて、もう叶わないと諦めかけていた。
自分の気持ちを伝える事も、そして、あの時の言葉を知る事も。
それなのに、留三郎は約束を守ってくれた。
記憶を無くしても、答えを聞かせてくれた。
だから、伊作は嬉しいという気持ちをこの言葉に込めて…。
「ありがとう、留三郎」
約束を守ってくれてありがとう。
好きになってくれてありがとう。
何度言っても言い足りないくらいで、何度もありがとうと言っていたら、留三郎は『何だよそれ』と笑っていた。
『今度、ゆっくり話すよ』
だって、今はまだこうしていたいから――――――
この日は朝から晴れ。
晴れの日は仙蔵と共に自転車登校だ。
今でも雨の日は楽しみで、天気が微妙な日は迷わずバス通学にしているのだが、今日は一日晴れ。
伊作は携帯を見て時間を確認すると、既に留三郎はバスに乗っている時間だ。
本人には言ってはいないが、留三郎がバスの中で静かに本を読む姿が好きだった。
昔からそうで、文机に向かい本を読んでいる姿をよく見ていたものだ。
でも今は部屋に行けばゲームで遊んでしまうから、バスの中でしか見れない貴重な姿だった。
(カッコイイんだよな、留三郎…)
伊作はいつもの定位置で本を読む留三郎の姿を思い出す。
本に集中している時は隣に伊作がいようと、留三郎の意識は本の中だ。
たまにずり落ちる眼鏡を上げ、長い指でページをめくる。
そんな姿が伊作は好きなのだ。
伊作はベッドの上に座り、自分の記憶に残っている留三郎を思い出していると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「何だ、起きていたのか」
「あ、おはよう」
「おはようじゃない。時計を見てみろ」
「時計?」
時計を見ると随分時間が経っていて、慌ててベッドから飛び降りた。
目覚ましが鳴ってすぐに起きた筈なのに、気づけばその時間よりも二十分は過ぎていた。
「もっと早く声かけてよ!」
「とっくに起きてると思ってたよ」
「ご飯食べてる時間ないなぁ」
「自業自得だ。じゃあ下で待ってる」
「うん、すぐ行くね」
仙蔵が部屋から出てすぐに準備をして、伊作は仙蔵の待つリビングに下りていく。
急いで準備しても朝食を食べる時間はなくて、用意されていたココアだけ飲んで家を出た。
お腹は空いているが仕方ないと伊作はペダルを漕ぎ、遅れる事なくいつも通りの時間に学校へと着いた。
(お腹空いた…)
今にも鳴りそうなお腹をおさえながら仙蔵と廊下を歩いていると、
「伊作ー!」
と勢いよく後ろから肩を組んできたのは小平太だった。
「あ、小平太おはよ…」
挨拶をしている途中で反対の肩を仙蔵に組まれ、小平太と仙蔵の肩を長次が組み、四人で円陣を組む形になった。
朝から廊下で四人が円陣を組んでいるから、至る所から視線を感じる。
「さて、伊作。お前、留三郎とドコまでいった?」
小声で聞いてきたのは仙蔵だ。
「はぁ?」
「まぁ、昔から留三郎の事、好きだったしなーって昨日何かあったのか?」
小平太は全員の顔を見渡していた。
「今日はかなり浮かれていた。留三郎の奴…」
長次の言葉に仙蔵と小平太は『へぇ~』と声を揃えてニヤリと笑う。
「伊作も朝からぼーっとしていたな。やはり何かあっただろう。で、どうなんだ?」
「ど、どうって…」
伊作は顔を真っ赤にして顔を伏せ、その反応を見た三人は円陣を解いた。
「よし、留三郎でもからかいに行くか」
「あ、私も行くぞ!でも、あいつ昔の事は覚えないんだったよな?」
「文次郎も覚えてない」
「あいつら覚えてないのに変わらんな。まぁ、いい。今は留三郎だ」
仙蔵は口元に薄い笑みを浮かべ、留三郎に何を言うつもりなのか。
小平太と長次も別なクラスにも関わらず、仙蔵と共に留三郎のもとへと向かう。
だがそれよりも伊作には気になる事があった。
「ちょっと待って!さっきから気になってたんだけど、三人は知り合い?それに昔からって…」
「そりゃ知ってるだろ?忍術学園時代から。記憶がないのは留三郎と文次郎だけだぞ」
小平太が答えると長次もその横で頷いた。
「え?記憶があるの僕だけじゃないのっ!?」
伊作はずっと自分に前世の記憶がある事を隠していた。幼なじみで何でも相談している仙蔵にすら、この話はしていない。
それなのに仙蔵は既に小平太と長次と知り合いになっているし、留三郎の事を好きな事もバレている。
「お前は隠しているようだったからな。まぁ、詳しい話は後だ。今は留三郎から詳しい話を聞かなければならん。大丈夫だ、昔の事を言うつもりはない。ただ、昨日の事を聞くだけだ」
仙蔵は伊作の肩をポンと叩き、小平太はその横で笑っていた。長次は眉間に力を入れてムッとした表情をしているから、かなり機嫌がよかった。彼もまたこの状況を楽しんでいるのだろう。
明らかに三人はこの状況を楽しんでいる。
「ちょ、ちょっと…」
「大丈夫だ、伊作。細かい事は気にするな。いけいけどんどーん!」
「大丈夫じゃないだろー!」
勢いよく走り出す小平太を捕まえようとするが、伸ばした手は彼には届かず、伊作はその場で盛大に転びいつもと変わらない不運を皆に見せつけたのだった。
『本当に変わらないな』
そんな伊作を見た三人は昔と変わらない表情を向けてくる。
だから、
「みんなもね」
と、伊作もまた昔と変わらない笑顔を返すのだった。
終

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