蜜柑
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けまい37
もう公演終わって結構経ったのでそろそろいいかなと思いアップ。
一部分を見て広げた妄想なので、ミュの中にないエピソードとかそんなのももちろんあります。
山賊砦から帰ってきた後の話。
お話はこちらから↓↓
ドクタケに捕まった乱太郎、きり丸、しんべヱ、喜三太を無事助ける事が出き、誰一人欠ける事なく忍術学園に戻ってきた。
だが、怪我人はいる。
宝禄火矢の爆発に巻き込まれた仙蔵と、囮役となった伊作だ。
伊作は帰ってくるまでは一年生がいる手前、大丈夫なフリをしていたけれど、実は相当なダメージを負っている。
ダメージを負っているにも関わらず、戦闘中は皆が傷付けば真っ先に駆けつけ、乱太郎と共に治療をしていたけれど本当は一番にそれを必要としていたのは伊作だった。
留三郎がそれに気づいたのは、自分が怪我をした時の伊作の様子に少し違和感を感じたからだ。
額には汗が滲み、触れる手微かに震えていた。
乱太郎が傍にいたからその時は何も言わなかったけれど、部屋に戻った途端に倒れたのだ。
「大丈夫か?」
留三郎は倒れた伊作を抱え布団にうつ伏せにして寝かせた。
「……大丈夫だよ」
伊作は笑うけれど、額には汗が滲んでいる。
「ばーか。無理すんな」
留三郎は伊作の髪を優しく撫でる。
乱太郎達を助ける為に囮となった伊作は、何度も背中を鞭で打たれた。打たれる度に伊作の痛みに耐える声が留三郎の耳に響いた。
思わず耐えきれずに出て行こうとするのを仙蔵に止められ、留三郎は必死に自分を抑え続け、無事に乱太郎達を助ける事が出来た。
伊作もそれでよかったと言っているし、留三郎自身もそれでよかったと思っているけれど、辛かった。
拳は怒りに震え、それを抑える為に自分の唇を噛んだ。自分にも痛みを与える事でどうにか耐える事が出来た。
それでも、伊作の負った傷を見ると心が痛む。
自分がもっと強ければ、誰も怪我をしなかっただろう。先に着いたのが先生や利吉なら、もっと上手く助けられていたかもしれない。
「……ごめんな」
「何で謝るの?」
「守れなかった」
「ちゃんと守れたじゃないか。僕達は可愛い後輩達を助けに行ったんだ。だから、お前が僕に謝るのはおかしいよ」
伊作は身体を起こして何事もなかったかのように笑う。
本当は痛い筈なのにだ。
「あぁ、でもお前がそんなに言うなら、背中の傷に薬を塗り直してくれないか?背中は自分じゃ出来ないから」
「わかった…」
伊作は上着を脱ぎ、邪魔にならないように背中にかかる髪を押さえ、留三郎に山賊から貰った傷薬を渡す。
「これ、山賊から貰ったやつか?」
「うん、だって使わないのは勿体ないじゃないか。それに、この匂い好きなんだ。いい匂いだよねー」
伊作は嬉しそうに笑っていた。自分の作る薬と違う物を見るのは新鮮で楽しいのだそうだ。
酷い怪我をしているのにこんな調子で、どれだけ心配されているかなんて全然気づいていない。
(まったく、こいつは…)
呆れが半分。でも、これが伊作なのだ。
留三郎は短く息を吐き、仕方ないと諦め、傷の手当てを始める。
傷薬のたっぷり染みた布を剥がせば、伊作の白い肌に痛々しく刻まれている紅。
けれどそこからは優しい匂いが香る。
留三郎は三人で山賊砦から帰る途中で、伊作が山賊に対し、『優しい人』だと言っていた。この傷薬の優しい香りがそう確信させたと言うのだ。
確かに彼は優しい男だった。捕まった乱太郎達を助けようとしたり、気を失った芝居をした伊作に気づきながら気づかないふりをしたり、最後はドクタケから手を引いてくれた。
そう考えると、無骨ではあるけれど優しいのだろう。
それに優しくなければこんなに優しい香を作れる筈がない。
そして、その優しい香りが伊作からもするのだ。
薬を塗り直す為に傷口を綺麗に拭く。
でも、拭き取ってもまだその香りは残っていた。
伊作はこの傷薬を作った山賊を『優しい』と言ったけれど。
(優しいのはお前だよ…)
自分の怪我が一番酷くても、人の心配ばかりする。
だから心配なのだ。
伊作の『大丈夫』は一番信用出来なかった。
留三郎は伊作の背中に触れ、顔を寄せる。
「優しい匂いがするな」
「うん、そうだね」
伊作がその香りで思い出すのは山賊の事だろうけれど。
「今日はお疲れさん」
留三郎はちゅっと伊作の傷に唇を落とした。
「ちょ、ちょっと、留三郎!?」
振り向き、逃げようとする伊作の身体を抱いて、今度はその傷にゆっくりと舌を這わせる。
「……ぁっ…、留…さぶろ…」
ねっとりと舌が傷口をなぞる度、伊作は声をあげ身体をよじった。
「…し…みる……」
「消毒だ」
こんな事をしても消毒にもならない事はわかっているけれど、それでも吸い付きたくなるのだ。
それに、肌触りのいい白い肌に浮かび上がる紅が、留三郎の感情を妙に高ぶらせた。
たまにちゅっとわざと音をたてながら滑らかな肌をなぞれば、伊作は呼吸を乱しながら留三郎を見る。
「留三郎っ!」
伊作は強く名を呼び目で止めるように訴えていた。
これでは消毒にならないと言いたいのだろうか。
確かにそうだ。清潔にしなければ駄目だと伊作はよく言っているし、小さな怪我なんか舐めとけば治るなんて放っておけば、凄い勢いで怒られるのだ。
「ごめん…」
少し調子に乗りすぎたと留三郎はその場に正座して、怒られる体勢を整え小さく息を吐いて視線を落とす。
けれど、それは許されなくて、伊作は両手で留三郎の顔を包み上を向かせた。
表情は少し怒っているようで眉間にシワが寄っていたけれど、ふっと笑い表情がいつもの柔らかいものとなった。
「傷になってるね」
そして、ペロリと留三郎の下唇を舐めた。何が何だかわからず言いたい言葉も出てこない留三郎は、口をパクパクさせて伊作を見れば、その表情が相当面白かったのだろう。
伊作は留三郎に触れたまま大笑いをしたのだ。
「何て顔してるんだ、留三郎。さっきのは消毒だよ消毒」
留三郎の下唇の傷は伊作を助けに行きたくなる衝動を必死に抑える為についた傷だ。血が滲むまで咬んでいたから傷になったのだ。それに人差し指でちょんと触れて、今度はぎゅうっと抱き締めた。
「助けようとしてくれてありがとうね。凄く嬉しかった」
留三郎は伊作の言葉に涙が零れそうになった。
こんな目に合わせてしまったのに、それでも伊作は優しい言葉をかけてくれるから。
(やっぱり優しいのはお前だ…)
思わず強く抱きしめてしまいそうになるけれど、背中に傷があるからそれは出来なくて…。
そして、抱き締めたくなる衝動と共にもう一つ。
ジワジワと目の前が滲んできて、仕方なく伊作の腰に軽く腕を回して、そのまま額を肩に置いた顔を隠した。
「本当に無事で良かった…」
そう言って留三郎は零れる涙を止める事が出来ず泣いた。
「うん。本当に無事で良かった」
留三郎の代わりに伊作が身体を強く抱き締め、二人は今ここに帰ってこれた事を喜ぶのだった。

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