蜜柑
杉の運営する小説ブログサイトです。食伊とシンジャを愛する杉の妄想吐き出しの場。
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けまい36 バレンタイン
伊作から食満さんへ。
春コミでこれの続きを発行します。
ホワイトデーです。
そっちは食満さんが伊作にチョコで返事を返す話になります。
とりあえず両想いです!
とりあえずバレンタインにアップ。
それでは続きはこちらから↓↓
夜が明ける前に作ってしまおう。
想いを込めたチョコレート。
自分の想いをたくさん詰めて世界にたった一つのチョコレートを作るのだ。
留三郎は伊作と共に行動する事が多い。
一緒に行動する事は二人にとっては自然な事だ。
忍務や演習でバラバラに行動してる時や、委員会の時は勿論別だが、それ以外なら殆どの時間を共に過ごしていた。
この日は二人に特にこれといった用事はない。委員会はあれど、時間内に終わるものだから当然二人は共に行動をする筈だった。
しかし、この日はそうではなかった。
「おーい、伊作。そろそろ食堂行こうぜ」
いつものように声をかけるのだけど、
「ごめん、留三郎。今日はちょっと用事があるんだ」
伊作は顔の前で手を合わせて逃げるように部屋を出ていく。
だが、伊作が向かったのは隣の部屋だ。
「長次、今大丈夫?」
静かに戸を開け、伊作はそこから顔を出す。
「あぁ」
長次は読んでいた本を閉じ立ち上がると、文机の横に置いてあった箱を出した。
「用意は出来ている」
もともと小さな声の長次が更に小声で喋るのだが、勿論その声は伊作には届いてはいない。だが、長次が伊作も知る箱を出してきたから何となく用意が出来ているのかなと察する事が出来た。
「じゃあ何処でやろうか?」
「こっちだ。場所は既に確保してある」
長次は箱を持ち、部屋を出ると、伊作はその後を黙ってついていく。
凄くそわそわする。
楽しみで仕方がなかった。
「伊作、楽しそうだな」
ちらりと振り向いた長次がそんな事を言ってくる。
「うん。だって明日はバレンタインだから」
伊作は少し前から長次に相談をしていたのだ。
バレンタインは女の子のイベントではあるけれど、それでもチョコを渡したい相手がいる。
勿論、それは留三郎にだ。
わざわざチョコと共に気持ちを伝えなくても、お互いの気持ちは既に知ってはいるけれど、それでもチョコを渡したかったのだ。
だが、どうせ渡すのなら自分らしい物をと思い、長次に相談をした。
彼は菓子を作るのが上手いのだ。
「いい物が作れるといいんだけどね」
「それなら心配しなくていい。あまり難しい物ではないからな」
「それならよかった。じゃあさっさと作っちゃおう」
「そうだな」
長次は無表情だけれど、優しい声でそう返事を返して伊作の髪を大きな手がくしゃりと撫でる。
「よーし、がんばるぞっ!」
伊作は気合いを入れて意気込むと、長次と共に闇に紛れたるのだった。
留三郎が夕飯に行き、風呂から帰ってきても伊作は部屋に戻っては来なかった。
気づくと隣の部屋の明かりも消えている。
小平太はこの日、忍務に出ているからいないのはわかるのだが、長次もいないのだ。
寝るには早すぎるし、食堂にもいなかった。
委員会という可能性もあるけれど、さっき図書委員の雷蔵の姿を見たばかりだ。
何となく気になった。
少し考えすぎかとも思ったのだが、伊作と一緒にいる事が自然過ぎて居ない事で不安になる。
だから、部屋で本を読んでいてもどこか集中出来なくて、気がつくといつも部屋の外に意識を飛ばしていた。
けれど、夜は何も聞こえてこないし、伊作の気配も感じられなかった。
(用事があると言っていたけど…)
伊作の言葉を信じていないという訳ではない。
でも、何故言ってくれないのだろう。
忍務というのならわかるが、今回はそうではない。
留三郎から小さなため息が漏れた。
もう夜も遅い。
留三郎は自分と伊作の布団を敷いて取りあえず寝る事にするのだが、なかなか寝付けなかった。かなりの時間をかけてようやく留三郎が深い眠りに入ろうか、という所で小さな足音が聞こえてきた。
その微かな音に目を覚ました留三郎は静かに音を聞く。
二人の足音。
一人は部屋の前で止まり、もう一つは部屋を通り過ぎて隣の部屋の前に止まった。
足音で伊作と長次だというのがわかる。
すると、すっと静かに戸が開き伊作が部屋の中に入ってくるのだが、留三郎を通り過ぎた時、ふっと甘い匂いが漂ってきた。
「伊作」
声をかけてみる。
「あぁ、ごめん。起こしてしまったかい?」
「……何か甘い匂いがする」
いつもなら薬臭い伊作が甘い匂いを漂わせているのだ。
「朝になったら教えてあげるよ」
部屋の中はもう暗くて伊作の表情は見えないけれど、その口調から笑っているのだいうのがわかった。
何かわくわくしているというか、妙にテンションが高いのだ。
夜だからそこまで騒ぐような声は上げないけれど。
「じゃあ朝まで待ってるよ」
「うん、楽しみにしてて。あと、布団敷いといてくれてありがとう。おやすみ」
伊作は留三郎の頬に柔らかな唇を落とす。すると、伊作から菓子の甘い匂い香といつもの薬の臭いがごちゃ混ぜになって香ってくる。
留三郎は伊作の身体を抱き、髪をやんわりと撫でた。
「おやすみ」
耳元でそう囁いて伊作を解放して寝るのだった。
「……う………ぶろう…」
声が聞こえた。
身体を揺すられている感じもする。けれど、布団の中が気持ちよくて更に深い眠りに入ろうとするのだけど……。
「留三郎ってばっ!」
「っ!?」
耳元で叫ばれて留三郎は一気に眠気から覚めた。
「な、何だよ!?」
「おはよう」
「…あぁ、おはよう。随分早いんだな」
もう少し寝ていたい気分だったが、大声でたたき起こされてしまったから留三郎は仕方なく身体を起こして大きく伸びをする。
いつも思うが朝の空気は本当に冷たい。刺すような寒さで雪でも降るのではないかと思う程だ。
「早いって今日は留三郎が寝坊してるんだよ。僕はもう用意出来てる。とは言っても普段が早すぎるから余裕はあるけど」
留三郎の朝はいつも早い。それに合わせて伊作も早く起きているのだが、この日は珍しく留三郎が寝坊した。
寝坊しても、もともとが早すぎる時間に起きているから何の問題もないのだけれど、留三郎はいつもと同じ時間に起きられなかった事が嫌らしい。伊作から告げられた事実に目を丸くして慌てて準備を始めた。
「まさか伊作に起こされるとは…」
慌てていても着ていた寝間着は綺麗に畳み、布団も手早く畳みながらそんな事を呟いていた。
「僕に起こされるのがそんなに嫌なのか?」
「んー、何となく…」
そう言って上着を着込み手ぬぐいを持ち部屋を出て、冷たい井戸水で目を覚ます。
伊作は寒いからと火鉢の前で暖まりながら留三郎を待つと、『さみぃ~』と身体を震わせながら部屋に駆け込む彼を見て思わずクスリと笑ってしまう。
それからすぐに、周りを片づけた後は鏡を出して髪紐をくわえ、櫛で髪を梳き髪をまとめ上げれば全ての準備は完了する。
そしてすぐに火鉢の前に座り暖をとって一息つくと、『そういえば』と話を切り出した。
「昨晩言ってたのは何だったんだ?凄く甘い匂いがしたけど」
留三郎がそう言って伊作の匂いを嗅ぐのだが、薬の臭いの染み込んだ布団で一晩寝てしまえば、そんな匂いはすぐに消えてしまったのだろう。
「それはねー」
伊作は少し照れくさそうにしながら後ろからさっと包みを出し、留三郎の前に出した。きっと最初からここで渡すつもりで用意していたのだ。
「これは?」
「今日はバレンタインだから。昨日、長次に手伝って貰ってこっそり作ったんだ」
「それでか…」
こっそり作っていたなんて可愛い事を言う、と思う。
これならば長次と一緒にというのにも頷ける。彼は菓子を作るのが上手い。
伊作は薬の調合は上手いのだが、それ以外は適当に作ってしまうから駄目なのだ。一人で作れば恐らくとんでもない物が出来上がるか、不運で何も出来ないかのどちらかだ。長次が一緒に作っているのなら安心だった。
「留三郎にはいつもお世話になってるし、気持ちをどうしても伝えたかったんだ。それにいつも元気でいて欲しいから。だから長次と一緒にいろいろ考えて、僕らしさを出しつつ身体にいいチョコを作ってみたんだ」
「伊作…」
伊作の気持ちがとても嬉しかった。
チョコを作りながらずっと自分の事を思っていてくれた事が嬉しいのだ。それに、そんな伊作がとても可愛く思える。
「開けていいか?」
「うん。開けてみて!」
伊作の作ってくれたチョコレート。
どんな物を作ったのだろう。
だが、長次が一緒に作ったのなら味に間違いはないだろう。
期待に胸膨らませ包みを開けると、そこに包まれていたのはハートの形に型取られ、『大好き』と書かれたチョコレートだった。
だが、そこにあったのは留三郎の知るチョコレートではなかったのだ。
チョコレートといえば甘い匂いがする筈なのに、何故か草の臭いしかせず、特にドクダミの臭いが強い。色も深い緑だった。
「伊作…これ…?」
「うん。最近少し疲れ気味みたいだったから、身体にいい薬草をいっぱい混ぜてみたんだ」
伊作はそう言って満足そうに笑っていた。
そして、留三郎はさっき伊作が言っていた言葉を思い出す。
『僕らしさを出しつつ、身体にいいチョコを作ってみた』
(そういう事かよ…)
伊作が大切な人を想い作った事は確かだ。
だが、それはその人の身体の事まで考えて作ったチョコで、味など二の次なのだ。
それにこのチョコは本当に伊作らしさが出ていた。
長次もそれで何も言わずにこれを一緒に作ったのだろう。
「絶対に身体にいい筈だから食べてね」
なんて笑顔で言ってくるのだ。
「あぁ、うん…」
この笑顔に留三郎は弱い。
留三郎はチョコを一口。
すると、思った通り留三郎の口の中に苦い草の味が広がった。
「どう?」
「……身体に良さそうだな…」
そう感想を述べると、伊作は『よかったー』とまた嬉しそうに笑った。
この笑顔を曇らせてしまう、不味いとかいらないとかそんな事は絶対に言えなくて、留三郎は残さずその草臭いチョコを無表情で完食したのだった。

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