蜜柑 けまい32 忍者ブログ

蜜柑

杉の運営する小説ブログサイトです。食伊とシンジャを愛する杉の妄想吐き出しの場。

   

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けまい32

本当は狐の嫁入りアプしようと思ったんですが、何だろうね。
ポメラから取り込もうとしたら文字化けしちゃってどうにもならんかったので、とりあえずこっち。

何でだろう?

一体何が起こってんだろう?

これ実際原稿でやられたらマジ泣くと思います。

今もちょっと泣きそうです
その可能性がない訳じゃないので・・・。


とりあえず今回のは六年生全員で忍務に行ってきたっていうシリアスな話です。


それではお話はこちらから↓↓



誰かが風邪を引いたり、怪我をすると絶対に伊作が薬を持って飛んでくる。
無茶をした時は怒りながら、でも素早く丁寧に手当や看病をするのだ。
確かに小言は煩い。
けれど、その手当の技術と薬の知識は誰もが認めるものだった。
それは伊作が五年以上学んできた知識。
教師達をも唸らせるものだった。
だから、皆は伊作を信頼している。
絶対的な信頼があるからこそ、伊作に任せるのだ。
 
 
じゃあ、伊作が動けない時は誰がそれをする?
 
 
勿論、校医の新野がいれば問題はないが、彼すらもいなかった場合はどうする?
 
 
どうする?
 
 
どうする?
 
 
「くそっ!何でこんな事に」
留三郎の言葉と表情からは焦りの色が見える。
「焦るな、留三郎。とにかく今はこの矢を抜く事が先だっ!」
文次郎が声を荒げ留三郎を制止するが、その表情にも焦りと苛立ちが見えていた。
本当ならこの矢を抜かない方が出血はしないで済む。
しかし、この矢には毒が塗られていた。だからすぐに矢を抜き、体内から毒を出す必要があったのだ。
この日は合戦場での実戦訓練で六年全員でそれをこなしていた。
訓練は順調に進んでいた。
ここは合戦場だ。全員無傷では済むはずはないが、全員大した怪我はしていない。
それに、怪我をしても伊作が全て的確な処置をする。
絶対的な信頼。
そして、安心がそこにあった。
伊作がいるなら大丈夫だと。
不運と言われてはいるけれど、伊作の戦闘技術は高い方だ。
ただ、それをあまり見せずにいるだけなのだ。
それでも、合戦場にいけばここにいる六年全員が経験の少ないただの忍たまだった。
経験が少ないか予想出来ない事態に陥ると、焦り、対応が出来なくなる。
そして、今がまさにそれだ。
合戦場での訓練が終了し、忍術学園に帰ろうとした時の事だった。
訓練が終わったから全員が気を抜いた。
それが間違いだった。訓練が終わってもまだ戦は終わってはいない。
この場から遠く離れるまでは気を抜いてはいけなかったのだ。
それなのに、全員が一瞬気を抜いた。
それはほんの一瞬。
だが、その一瞬で彼らを取り巻く状況が一変した。
帰ろうとした時、伊作の身体がぐらりとよろめいたのだ。
「伊作っ!」
伊作の隣にいた留三郎がまず先にその異変に気づき、倒れる身体をとっさに支えた。
「おいっ!」
「だい・・・じょう・・ぶ・・・」
だが、伊作はそれからハッハと短く苦しげな呼吸を始めて意識を手放した。
「伊作っ!」
少し後ろを歩いていた伊作は運悪く、偶然飛んできた矢に当たってしまったらしい。伊作の背中には深く矢が刺さっている。
そして、当たらずに地面に刺さっている矢を仙蔵がそれを確認する。
先端を確認し、臭いを嗅ぐ。
「毒が塗ってあるかもしれん・・・」
「毒だとっ!?」
文次郎はその矢を仙蔵から奪い臭いを嗅いた。すると、土の臭いに混ざって何か違う臭いを感じる。
「なら早くその矢を抜かないとまずいな」
小平太がすぐその矢を抜こうとするが、それを長次が止めた。
「ここでは危険だ」
「しかし一刻を争うぞ!」
「わかっている。だが、少し落ち着け、小平太」
長次は小平太の髪をくしゃくしゃと撫でて、言葉もなく伊作を支えている留三郎の方をぽんと軽く叩いた。
「これから安全な所へ移動する」
「じゃあ、俺が伊作を背負っていく」
留三郎はそう言って伊作を背負おうとするのだが、足に力が入らなかった。
背負ってすぐにかくんと膝の力が抜けて手をついてしまったのだ。
「留三郎、お前は訓練中に随分動いた。もう体力が残ってないだろう?」
仙蔵が冷ややかに言う。
だが、それは皆同じだった。
留三郎は勿論、仙蔵、文次郎、長次、皆疲れきっていた。
もう誰かを背負ってここから離れるだけの体力などないのだ。一人を除いては。
「私ならまだ余裕がある」
小平太はすぐに伊作を背負った。
でも、いくら体力があるとはいえ、彼にもさほど大きな余裕はない。
恐らく、伊作を担いで全力で忍術学園に帰るだけの体力は流石の小平太にも残ってはいなかったが、ここから安全な場所までなら走る事は出来る。
「急ごう」
全員は小平太のその言葉に頷き、その場から全力で離れるのだった。
 
 
 
どれくらいの距離を離れたかわからない。
だが、五人は無言で走り続けた。
さっきまですぐ近くで聞こえていた雄叫びや悲鳴、大砲、銃の音。そこから出る火薬の臭い。
それらから逃げる為に走る。
 
 
走って、走って・・・。
 
 
そしてようやく落ち着いた所は丁度合戦場と忍術学園との中間地点だった。
「おい、そろそろ大丈夫じゃないのか?」
それに気づいた文次郎が先頭を走る小平太に声をかけた。
小平太は一度足を止めて、くんくんと辺りの臭いを嗅いだ。
合戦場から流れてくる臭いで距離を測っているのだ。
野生。それが小平太だ。
こんなまねは小平太にしか出来なかった。
だが、これは信用出来る彼の能力だ。
「そうだな。随分離れたし、ここなら大丈夫だ」
小平太はすぐに伊作を下ろして身体を支えた。
「すると仙蔵はクナイを取り出し、伊作の上着を裂いていく。
「抜くぞ」
小平太がしっかりと伊作の身体を支える。
そして、仙蔵がゆっくりと矢を抜いた。
ずるりと矢は抜け、傷口からはどろりと血が流れて、仙蔵は更にそこの水をかけて血を絞り出す。
ただ傷を負っただけならばそのまま止血をするのだけれど、今回は毒を少しでも体外に出さなければならなかった。
「おい、解毒薬はあるか?」
今度は伊作の上着で傷口をきつく巻き、仙蔵は留三郎に声をかける。
だが、留三郎の手は震え、思うような行動が取れないでいた。
あの器用な手が解毒薬すらまともに取れないのだ。
 
 
伊作が死ぬかもしれない。
 
 
そんな思いが彼を酷く同様させた。
「おい、留三郎!しっかりしろっ!」
文次郎は留三郎の胸ぐらを掴み、一度殴りつけるのだがそれでも彼の震えは止まらなかった。
「文次郎、そんな奴放っておけ。今は伊作の解毒が先だ」
「・・・何種類かあるようだ」
留三郎の代わりに長次が伊作の薬箱から解毒薬を三種類取り出した。
だが、解毒薬は解毒薬でも解毒の効果はそれぞれだ。伊作ならばそれがわかるのだが、ここにいる五人にはそれがわからない。
せめて伊作の意識があればよかったのだけれど。
「どうするんだ、仙蔵?」
小平太が聞くと、仙蔵は長次の持つ三つの解毒薬の包みを見つめ、一度大きく息を吐いた。
そして、
「これだ」
と一つの包みを選んだ。
それをすぐに伊作の口に含ませ、水を流し込む。
飲んだのを確認すると、仙蔵はすぐに立ち上がった。
「小平太、学園まで伊作を抱えて走れるか?」
「それなら大丈夫だ。少し休んだからな」
小平太はニッと笑い、また伊作を背負った。
「文次郎、留三郎を頼む」
長次は伊作の荷物を持ち、小平太と仙蔵に続く。
「おい、留三郎」
「・・・わかってる」
声をかけられた留三郎は自分の拳で一度額を殴り、立ち上がって先を行く三人を追い、文次郎もその後を遅れて追った。
 
 
 
忍術学園に到着した五人はすぐに医務室へ向かった。
「新野先生っ!」
全員で一気に駆け込んだものだから、戸が外れて将棋倒しだ。
「どうしたんですか?君達らしくない」
いつも冷静でいる仙蔵までもが取り乱している。
「伊作が毒矢に当たってしまって・・・。出来る限り血を抜いて止血を。あと、この解毒薬を飲ませました」
仙蔵がそう説明をして飲ませた解毒薬の包みと、伊作に刺さっていた矢ともう一つ、地面に刺さった矢を新野に渡す。
「恐らく同じ毒が塗ってあります」
新野はその矢を見て臭いを確認し、仙蔵が飲ませたという解毒薬の包みを開けた。
すると新野は口元に笑みを浮かべ、
「これで正解です」
そう言って伊作の様子を見た。
「この毒にはこの解毒薬で合っていますよ。解毒薬を飲んでいるのなら大丈夫でしょう。呼吸も安定している。でもこの後、少し熱が出るかもしれないですね」
新野の言葉に全員は安堵の息を漏らす。
「それより、君たちも怪我をしているね。きちんと手当しないと駄目ですよ。これから保健委員を集めますから。私が戻ってくるまでに善法寺君をそこに寝かせておいてくださいね」
「はい」
留三郎がそう答え、その返事を聞いてから新野は医務室を出ていった。
五人は伊作をそっと横にして、それから小平太と文次郎は大の字になった。仙蔵と長次は壁に寄りかかり、留三郎だけは伊作の横で血の気の引いたその顔を眺めている。
「新野先生が大丈夫だとおっしゃられたのだ。大丈夫だ」
こんな風に慰めるのなんてと思う仙蔵だが、今の留三郎は本当に思い詰めた顔をしている。
「わかってる。わかってるんだ。でも、俺達は本当に無力だった。俺なんか頭真っ白になっちまったし。今回は仙蔵、お前がいたから良かったけど」
「そうだな。今回伊作が助かったのはお前の飲ませた解毒薬が合っていたからだろうしな。よく知っていたな」
文次郎は関心した様子で仙蔵に視線を向ける。
だが、仙蔵はククッと笑った。
「そんなの私が知ってると思うか?それも伊作が勝手に作った物を。カンだカン」
「はぁ?」
「伊作は不運。だが、私は運がいい。だからその運にかけただけだ」
「お前なぁー」
文次郎は半分呆れている。
伊作が助かったから良かったものを、それが駄目だったらどうするつもりだったのだろう、と思う。
「でも助かったんだ。もう小さい事は気にするなー」
そう言って小平太は笑う。
「そうだな」
長次も笑って、最後は留三郎も力を抜きその場に横になった。
「本当によかった・・・」
そう呟いて、留三郎も笑うのだった。
 
 
そして、暫くして新野が保健委員を連れて医務室に戻ってきた。
「おや?」
新野が戻ってくると皆は疲れ果ててその場で眠っていたのだ。
「仕方ないですね。皆さん、彼らを起こさないように手当しましょう」
新野がそう言うと保健委員全員が、
『はいっ!』
と声を揃えて返事をし、手当に取りかかった。
 
 
 
目を覚ましたのが一番早かったのは伊作だった。
 
 
(あぁ、ここは・・・医務室か・・・)
 
 
嗅ぎ慣れた薬の臭い。
それが伊作に自分が何処にいるかを認識させてくれた。
 
 
(喉が乾いたな)
 
 
乾きすぎて声が出なかった。
それに、背中が熱く熱を持ち、身体を動かそうとすると激痛が走る。
首を横に傾けるとすぐ横で留三郎が眠っていた。
 
 
(留三郎・・・)
 
 
だが、医務室には留三郎以外の気配も感じる。
大きなイビキが聞こえ、それがいつも隣の部屋から聞こえてくるものだと気づくのに時間はかからなかった。
 
 
(小平太もいる。というより全員で帰ってこれたんだ)
 
 
伊作は小さく安堵の息を漏らし上を向く。
すると、
「目を覚ましましたか?」
新野が伊作の顔を覗いた。
けれど伊作は喋る事が出来なかった。だから、小さく頷いて答えた。
そして、少しだけ身体を起こし、水を飲ませてくれた。
 
 
(冷たくて美味しい)
 
 
冷たい水が伊作の乾いた身体を潤していく。
身体は多少痛むけれど、それ以上に乾きが酷い。
それは背中の痛みも気にならない程に。
「先生、皆は?」
「貴方よりも軽症です。ただ、今は疲れて眠っているだけなので安心してください」
「そうですか。それならよかった」
伊作はそう言って笑い、また目を閉じた。
まだ伊作の体力は全く回復していないのだ。
「では、善法寺君以外は自室で休むように」
新野の言葉に五人は一斉に目を開けた。
もう皆の体力は一日休んで随分回復した。傷を負ったから患部に熱は持っているものの、動けない程ではない。
小平太に関してはぴょんぴょん飛び跳ねて自分の調子を確認していた。
他は飛び跳ねないにしろ身体を伸ばしてみたりしながら少し身体を動かしている。
そして、体力が回復した事を確認すると自分達の使った物を片づけ、伊作を起こさないよう静かに医務室を出ていった。
「食満君」
留三郎が出ていこうとした時、新野が声をかけた。
「はい」
「夜になったら医務室に来てください。もう伊作君は大丈夫なので夜には部屋に戻します。ただ、まだ一人では歩けないと思うので迎えにきてくださいね」
「わかりました」
そう答えて留三郎は最後に医務室を出て、静かに戸を閉めた。
 
 
 
部屋に戻ってから留三郎は大の字になり、静かに天井を眺めていた。
あまり広くない部屋を衝立で仕切って二分しているから、自分の場所はとても狭い。
それなのに伊作が居ないというだけで、その部屋がとても広く感じられた。個人の演習があるから居ない事なんて当たり前だった。今までそんな事を気にすらしなかった。
でも、それは伊作が元気でいるというのが頭にあったからだ。
絶対にここに帰ってくるのだ、そう確信があったから気にも止めなかった。
けれど今回は少し違う。
 
 
伊作が死んでしまう。
 
 
本気でそう思った。
怖くて、怖くてたまらなかった。
未だに身体が小さく震えている。
伊作は死んではいない。今夜、部屋に戻ってくる。それはわかっているのに震えが止まらないのだ。
「伊作・・・」
何もない天井に向かって留三郎は小さく呟いた。
 
 
 
 
夜。
本当は夕食を食べる来にはならなかったのだけれど、小平太が誘いにきた。
留三郎は食べる気にならないと言ったのに、そんな事はお構いなしに引きずられるようにして食堂に引っ張られる。
食堂に付けば伊作以外の全員が集合していていた。
いつも通り、美味そうな匂いが立ちこめる食堂。いくら食べたくないと言っても、やはり腹は減っているようで、目の前に食事を出されれば、それは吸い込まれるように口の中に入り腹を満たしていく。
生きてると実感できる一瞬だ。
本当に食事が美味い。
「この後、伊作を迎えに行くんだろう?」
仙蔵がそう切り出した。
「あぁ、これから迎えに行く」
留三郎は最後に食堂に来たというのにあっと言う間に食事を済ませて食器を片づけて食堂を出ていった。
伊作は大丈夫だろうか。
そんな事ばかりが頭をよぎる。
だが、新野から伊作の容体が急変したという知らせはない。
きっと大丈夫だ。
そう言い聞かせながら、留三郎は言われた通り医務室へと向かう。
「失礼します」
留三郎が医務室に入ると、宿直当番の乱太郎が居て、伊作は楽しげに話をしていた。
「あぁ、留三郎。お前は無事だったんだね」
「俺の心配より自分の心配しろよ」
「ははっ、確かにそうだ」
思ったより伊作は元気で留三郎は安心した。
いつものように笑っている。
「それで新野先生は?」
「さっきまで居たんだけど。でも、留三郎が来たら部屋に戻っていいって言われてるから」
伊作はゆっくりと身体を起こす。
「おい、無理するなよ」
「大丈夫だよ。じゃあ、乱太郎。僕は部屋に戻るからと新野先生に伝えておいてくれ」
「わかりました。あ、あと先輩、これ忘れずに飲んでください」
そう言って乱太郎は薬を伊作に渡した。
「わかってるよ」
伊作はそれを持ち、留三郎の背に乗った。留三郎はあまり振動をかけないように静かに歩き医務室を出る。
「本当に大丈夫なのか?」
「ん、かなり痛いよ」
「乱太郎には大丈夫だって言ってたくせにな」
「僕は先輩だし、下級生に心配はかけられないだろ?」
「確かにそうだ」
留三郎は伊作と話し、ようやく笑う事が出来た。
静かにゆっくり歩き、部屋の前に着くと、留三郎は足で戸を開ける。
布団を敷く前に小平太に連れ出されてしまったから、留三郎は伊作を下ろして座らせると布団を敷いた。
薬臭い伊作の布団。
この臭いが嫌でたまらない筈なのに、今はとても安心する臭いになっていた。この布団を出すという事は伊作が帰ってきたという事だから。
「ねぇ、留三郎」
「ん?」
「今日は甘えていい?」
「俺だって怪我人だぞ?」
「あーそっか」
伊作はちょっと考えてからそう言った。
いつも自分よりも相手を優先させる伊作がそんな事を言うのは珍しい。相当弱っているのだろう。さっきよりも少し表情が暗くなった。
「そんな顔すんなよ。さっきのは冗談。俺の怪我は大したことねぇし、お前はもっと甘えろ」
伊作を布団に寝かせて、髪を撫でた。
「いいの?」
「だからいいって言ってんだろ?」
「じゃあさ、これ・・・」
伊作がそう言って留三郎に渡したのはさっき乱太郎が飲めと言った薬だった。
「これは?」
「解熱薬。新野先生から飲むようにと言われてるんだ」
確かに伊作を背負っている時、背中から伝わる熱がいつもより熱かった。傷を負ったのもあるが、毒を受けた事も少しは影響しているのかもしれない。
「じゃあ、ちょっと水持ってくる」
この部屋に今水はない。冷たい水を汲んですぐに部屋に戻れば、伊作は何だか嬉しそうにしていた。にこにこしながら留三郎に視線を向けていた。
「身体は起こせないだろ?」
「・・・起こしたくない」
伊作はさっきの言葉通り、留三郎に甘えている。医務室で下級生達の前で絶対にこんな事は言わない筈だ。
自分だけに甘えてくれると嬉しい。他の誰にも見せない、留三郎にだけ見せる伊作の一面を見られる事に優越感を感じるのだ。
「仕方ねぇな。ほら、口開けろ」
留三郎は伊作の口に解毒薬をさらさらと入れて、自分は口に水を含む。
そして、そのまま口移しで水を伊作に流し込んだ。
ゴクンと伊作が水を飲み込んだ音がする。
「もう一回」
「うん」
また留三郎は水を口に含み、伊作に口移しで流し込む。
「もっと欲しい」
その要求に留三郎は答えた。口移しで水を飲ませてやる。
留三郎の唇が一度離れると首に腕が回され、それに逆らう事なく近づくと、伊作は互いの頬をくっつけた。
「なんかやっと帰ってきたって感じがする」
「そうだな。俺、お前が倒れた時、怖かったんだ。伊作が死ぬんじゃないかって思ったら怖くて身体が震えた。何も出来なくて、それが情けなくて、どうしたらいいかわからなくなって。こうやってお前の熱を感じるまでずっと怖くて不安だったんだ」
「留三郎、僕は大丈夫だよ」
自分より重傷の相手に慰められるなんて本当に情けないと思う。
けれど、伊作はそれだけ留三郎にとって大事な、かけがえのない存在なのだ。
「それに僕だって、お前が怪我をする度にそう思ってる。震えるんだ。だから無理はしないでくれ」
「それはお前の方だっつーの」
留三郎は伊作とくっついた頬をさらにぐりぐりっとこすりつけて、二人で甘えあうのだった。

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